それは、紅葉が見頃を迎えた、11月のある晴れた日のことでした。私は友人たちと、長野県の山へ、ハイキングに出かけました。落ち葉が敷き詰められた、ふかふかの登山道を、談笑しながら歩く。まさに、秋の行楽の醍醐味でした。事件が起こったのは、昼食を終え、下山を始めた矢先のことです。少し開けた、日当たりの良い斜面を、私が先頭で歩いていた、その瞬間。足元から、「ブォン!」という、地面が振動するような、不気味な羽音が、突如として湧き上がりました。そして、次の瞬間には、私の足元、地面の穴から、おびただしい数の、黒い蜂の群れが、まるで噴水のように噴き出してきたのです。クロスズメバチです。私が、気づかずに、彼らの巣の真上を踏みつけてしまったのでした。パニックで頭が真っ白になりました。「逃げろ!」誰かが叫び、私たちは一目散に、坂道を駆け下りました。しかし、怒り狂った蜂の群れは、執拗に私たちを追いかけてきます。首筋や、頭、腕に、チクッ、チクッという、鋭い痛みが、何度も何度も走ります。私は夢中で、着ていた上着を頭から被り、転がるようにして、数十メートルを駆け抜けました。ようやく蜂の追跡が止んだ時、私の体は、恐怖と痛みで震えていました。幸い、一緒にいた仲間も、私も、アナフィラキシーショックを起こすことはありませんでしたが、全員が体の数カ所を刺されていました。その日の楽しいハイキングは、一転して、悪夢のような体験として、私たちの記憶に刻まれました。あの時、私は身をもって学びました。穏やかに見える自然の中には、常に、私たちの想像を超える危険が潜んでいるということを。そして、地面の下に広がる、見えない世界への、畏敬の念を忘れてはならないのだと。あの地面から湧き上がる黒い群れの光景は、自然の厳しさを私に教えた、忘れられない教訓となっています。