都心から少し離れた住宅街に暮らす佐藤さん一家は、庭での家庭菜園が趣味でした。しかし、その年の梅雨時、一家は奇妙な現象に悩まされることになります。雨が降るたびに、庭の北側のブロック塀や物置の土台に、無数の細長い貝がびっしりと張り付くようになったのです。その数と見た目に、家族は強い不快感を覚え、対策を講じることにしました。夫の健一さんは、これがキセルガイという貝で、植物への害は少ないという情報を得ましたが、家族の不快感を前に、何らかの対策が必要だと感じていました。彼はまず、市販のナメクジ用駆除剤を撒いてみましたが、キセルガイの数に大きな変化は見られません。次に熱湯による駆除を試みましたが、その場限りで、次の雨が降るとまた同じ光景が繰り返されました。途方に暮れた健一さんは、発想を転換します。「なぜ、うちの庭の北側だけに、こんなに大量発生するのだろうか?」。彼は庭の環境そのものに目を向け始めました。北側のエリアは、一日中日当たりが悪く、物置があるため風通しも悪い。そして、その物置の裏には、ここ数年手つかずのまま放置された落ち葉が、分厚い層となって堆積していることに気づきました。これこそが、キセルガイにとって天国のような環境だったのです。適度な湿り気、豊富な餌、そして日差しを避ける隠れ家。全ての条件が揃っていました。佐藤さん一家は、週末に家族総出で庭の環境改善に取り組みました。物置の裏に積もった落ち葉を全てかき集め、茂りすぎていた庭木の枝を剪定し、風通しを良くしました。それから数週間、劇的な変化が訪れました。雨が降っても、以前のようにブロック塀がキセルガイで埋め尽くされることはなくなったのです。この一件を通じて、一家は大切なことを学びました。やみくもに生き物を駆除するのではなく、その生き物がなぜそこに大量発生するのか、その環境的な原因を探ることの重要性です。