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硬い表紙に穴を穿つシバンムシによる食害の痕跡
図書館や古書店で古い本を手に取ったとき背表紙やページの中にまるでドリルで開けたような綺麗な丸い穴が貫通しているのを見たことはないでしょうか。これは通称「ブックワーム(本の虫)」として世界中で恐れられている「シバンムシ(死番虫)」の幼虫による食害の痕跡です。シバンムシという不吉な名前は成虫が頭を打ち付けてカチカチと音を立てる様子が死神が秒読みをする時計の音に似ていることから名付けられたと言われていますが本好きにとってはまさに死神のような存在です。日本で被害をもたらすのは主にフルホンシバンムシやジンサンシバンムシといった種類で成虫は体長二から三ミリメートルの茶色く丸っこい甲虫ですが実際に本を食べるのはその幼虫たちです。彼らの特筆すべき点はその強力な咀嚼力にあり紙だけでなく糊や革製の表紙までもバリバリと噛み砕き本の内部にトンネルのような巣を掘り進めます。シミやチャタテムシが表面を舐めるように食害するのに対しシバンムシは本を物理的に破壊し貫通させるため資料としての価値を著しく損なうという点で被害の深刻度は群を抜いています。彼らは乾燥食品(パスタや小麦粉など)や畳の藁(わら)なども食べる雑食性であり家の中のあらゆる乾燥有機物が発生源となり得るためキッチンで発生したシバンムシが書斎に移動して本を食い荒らすというケースも少なくありません。シバンムシの被害に気づくきっかけの一つに本棚の下に細かい粉が落ちていることがありますがこれは彼らが本を食べた際に出る排泄物や食べカスでありこれを見つけたらすぐに本棚全体を点検する必要があります。ページを開くと白い幼虫がこんにちはと顔を出すこともありその衝撃は計り知れません。駆除には燻煙剤が有効ですが幼虫は本の中に深く潜り込んでいるため薬剤が届きにくく一度の処理では根絶できないことが多いのが難点です。被害に遭った本はビニール袋に入れて冷凍庫で数日間凍らせることで中の幼虫や卵を死滅させるという方法がありますが本自体へのダメージも考慮しなければなりません。またフェロモントラップを使って成虫を捕獲し繁殖を防ぐという予防策も有効です。シバンムシは古い本独特の糊の匂いやカビの匂いに引き寄せられる傾向があるため古本を購入した際はすぐに本棚に入れず一度状態を確認し虫がついていないかチェックする検疫期間を設けることが賢明です。彼らの穿つ穴は知識の蓄積に対する冒涜のようにも見えますが彼らにとっては単なる栄養源に過ぎずその無機質な食欲から知の遺産を守るためには人間側の絶え間ない監視と努力が必要不可欠なのです。