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私がハイキングでクロスズメバチの巣を踏んだ日
それは、紅葉が見頃を迎えた、11月のある晴れた日のことでした。私は友人たちと、長野県の山へ、ハイキングに出かけました。落ち葉が敷き詰められた、ふかふかの登山道を、談笑しながら歩く。まさに、秋の行楽の醍醐味でした。事件が起こったのは、昼食を終え、下山を始めた矢先のことです。少し開けた、日当たりの良い斜面を、私が先頭で歩いていた、その瞬間。足元から、「ブォン!」という、地面が振動するような、不気味な羽音が、突如として湧き上がりました。そして、次の瞬間には、私の足元、地面の穴から、おびただしい数の、黒い蜂の群れが、まるで噴水のように噴き出してきたのです。クロスズメバチです。私が、気づかずに、彼らの巣の真上を踏みつけてしまったのでした。パニックで頭が真っ白になりました。「逃げろ!」誰かが叫び、私たちは一目散に、坂道を駆け下りました。しかし、怒り狂った蜂の群れは、執拗に私たちを追いかけてきます。首筋や、頭、腕に、チクッ、チクッという、鋭い痛みが、何度も何度も走ります。私は夢中で、着ていた上着を頭から被り、転がるようにして、数十メートルを駆け抜けました。ようやく蜂の追跡が止んだ時、私の体は、恐怖と痛みで震えていました。幸い、一緒にいた仲間も、私も、アナフィラキシーショックを起こすことはありませんでしたが、全員が体の数カ所を刺されていました。その日の楽しいハイキングは、一転して、悪夢のような体験として、私たちの記憶に刻まれました。あの時、私は身をもって学びました。穏やかに見える自然の中には、常に、私たちの想像を超える危険が潜んでいるということを。そして、地面の下に広がる、見えない世界への、畏敬の念を忘れてはならないのだと。あの地面から湧き上がる黒い群れの光景は、自然の厳しさを私に教えた、忘れられない教訓となっています。
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クロスズメバチの駆除、プロに任せるべき理由
庭の木の根元や、土手に、クロスズメバチの巣らしき穴を発見してしまった。その時、多くの人が「自分で駆除できないだろうか」と考えるかもしれません。しかし、クロスズメバチの駆除は、他の蜂の駆除とは比較にならないほどの、特殊な危険性と難易度を伴います。結論から言えば、その駆除は、絶対に素人が手を出してはならない、プロフェッショナルの領域です。プロに任せるべき、いくつかの決定的な理由があります。第一に、「巣の全体像が全く見えない」ことです。軒下などに作られるアシナガバチの巣とは異なり、クロスズメバチの巣は、完全に地中に埋まっています。私たちが地上から確認できるのは、働き蜂が出入りする、ほんの小さな穴だけです。その地下に、どれほどの規模の巣が、どの方向に広がっているのかは、プロの経験と知識がなければ、全く予測することができません。市販のスプレーを穴に噴射したところで、薬剤が巣全体に行き渡ることは、まずあり得ません。中途半端な攻撃は、地中に潜む、数千匹の兵士を地上に溢れ出させる、最悪の引き金となるだけです。第二に、「地中からの奇襲攻撃」という、極めて危険な反撃パターンです。巣を刺激すると、蜂は一つの出入り口からだけでなく、私たちが予期しない、地面の別の場所から、まるでゲリラ部隊のように、一斉に湧き出てくることがあります。完全に包囲され、逃げ場を失ってしまうリスクがあるのです。プロは、巣の規模や構造を予測し、煙などを使って蜂を混乱させ、全ての出入り口を特定・封鎖しながら、安全に作業を進める技術を持っています。第三に、「巣の完全な撤去」の難しさです。たとえ薬剤で蜂を全滅させることができたとしても、地中に残された巨大な巣を、素人が完全に掘り出して撤去するのは、物理的に非常に困難です。巣を放置すると、それが腐敗して悪臭を放ったり、他の害虫の発生源となったりする可能性があります。プロは、蜂を駆除するだけでなく、巣を完全に撤去し、その場所を埋め戻すまでを、一連の作業として行います。見えない敵との戦いは、想像を絶する危険を伴います。そのリスクを冒す価値は、どこにもありません。安全と確実性を、プロの技術で買う。それが、最も賢明な選択なのです。