ある晴れた日、ふとキッチンの隅に目をやると、そこには黒い小さな点が、まるで意思を持っているかのように、一列に並んで行進していた。アリの行列です。最初は数匹だったはずが、気づけば何十、何百という数に膨れ上がり、家の中を我が物顔で練り歩く。この、蟻の大量発生という悪夢は、なぜ私たちの家で起こってしまうのでしょうか。その原因は、決して偶然ではありません。それは、私たちの家が、アリたちにとって「魅力的な何か」を提供してしまっている、という明確なサインなのです。アリが大量発生する最大の原因は、言うまでもなく「餌」の存在です。アリは、驚くほど小さな食べかすも見つけ出す、非常に優れた嗅覚を持っています。食卓や床にこぼれたお菓子のクズ、砂糖やジュースのわずかなシミ、あるいは、ペットフードの食べ残し。これらはすべて、アリの偵察部隊にとっては、仲間を呼び寄せるための、強力な目印となります。一匹の働きアリが餌を発見すると、巣に帰るまでの道のりに「道しるべフェロモン」と呼ばれる化学物質を分泌します。他のアリたちは、このフェロモンの道を辿って、次から次へと餌場へと殺到するのです。これが、アリの行列ができるメカニズムです。また、アリは餌だけでなく、「快適な住処」も求めています。家の壁のひび割れや、タイルの隙間、あるいは植木鉢の下などは、雨風をしのげる絶好の巣作りの場所となります。特に、木材の中に巣を作る種類のアリにとっては、家の柱や土台そのものが、巨大なマンションに見えているかもしれません。そして、意外な盲点となるのが「天候の変化」です。例えば、大雨が降って巣が水浸しになったり、逆に猛暑で土が乾燥しすぎたりすると、より快適な環境を求めて、家の中へと大移動してくることがあります。これらの原因を理解し、アリにとって魅力のない家を作り上げること。それが、彼らとの共存ではなく、決別を選ぶための、第一歩となるのです。