秋の行楽シーズン、ハイキングやバーベキューを楽しんでいると、黒っぽく、小柄な蜂が、食べ物の周りをしつこく飛び回っているのに出くわしたことはありませんか。多くの人が、その俊敏な動きと名前に含まれる「スズメバチ」という言葉から、強い警戒心を抱きます。しかし、この「クロスズメバチ」は、私たちが一般的に想像する、オオスズメバチやキイロスズメバチといった大型のスズメバチとは、その生態も危険度も、大きく異なる、少し特殊な存在なのです。まず、その見た目です。クロスズメバチの体長は1~1.5センチ程度と、スズメバチの中では最も小型で、むしろアシナガバチに近いサイズ感です。その名の通り、体は黒色が基調で、腹部に白い縞模様が入っているのが特徴です。この小柄な体格こそが、彼らの生態を特徴づける、重要なポイントとなります。クロスズメバチが他のスズメバチと決定的に違う点、それは、彼らが巣を作る「場所」です。オオスズメバチやキイロスズメバチが、木の洞や屋根裏といった、閉鎖的な空間に巣を作るのに対し、クロスズメバチは、なんと「土の中」に巣を作ります。具体的には、古いネズミの巣穴や、木の根元の隙間、あるいは土手の斜面などを巧みに利用し、地中に広大な巣を築き上げるのです。このため、ハイキング中に、気づかずに巣の真上を歩いてしまい、振動で蜂を刺激して、集団攻撃を受けるという被害が、後を絶ちません。また、彼らの食性もユニークです。幼虫の餌として昆虫を狩る点は他のスズメバチと同じですが、成虫は、花の蜜や樹液だけでなく、動物の死骸や、人間の食べ物(特に肉や魚)にも強く誘引されます。これが、行楽地で私たちの食事に群がってくる理由です。地域によっては、この蜂の子(幼虫や蛹)を「へぼ」や「じばち」と呼び、貴重なタンパク源として食す文化も存在します。スズメバチの仲間でありながら、土の中に暮らし、人間の食べ物を狙う、少し風変わりな存在。それが、クロスズメバチの本当の姿なのです。
クロスズメバチとは?その意外な正体と生態