秋のアウトドア・レジャーで、最も多くの人がクロスズメバチと遭遇するシチュエーション。それは、間違いなく「食事中」でしょう。バーベキューの肉や、お弁当の唐揚げ、あるいは甘いジュースの周りを、黒っぽく小柄な蜂が、しつこく飛び回る。この迷惑な行動は、クロスズメバチのユニークな「食性」に、その原因があります。スズメバチの仲間は、その一生のステージによって、食べるものが変化します。巣の中にいる「幼虫」は、肉食性です。働き蜂が、他の昆虫などを狩ってきて、それを噛み砕いて肉団子にし、幼虫に与えます。一方、働き蜂である「成虫」の主なエネルギー源は、糖分です。そのため、基本的には、花の蜜や、クヌギなどの樹液、あるいは熟した果実などを好んで舐めます。ここまでは、他のスズメバチと大きく変わりません。しかし、クロスズメバチが特殊なのは、成虫になっても、糖分だけでなく、「タンパク質」を積極的に摂取するという点です。彼らは、動物の死骸や、弱った昆虫、そして、私たち人間が食べている肉や魚にも、強い興味を示し、それらを自らの栄養源として、あるいは巣にいる幼虫への土産として、熱心に集めようとするのです。これが、バーベキューやピクニックの場に、彼らがしつこく現れる、最大の理由です。この厄介な食客への対策は、まず「誘引源を作らない」ことが基本です。食事の際は、食材を長時間、無防備な状態で放置しない。飲みかけのジュースやビールの缶は、必ず蓋をするか、飲み口をラップで覆う。食べ終わった後のゴミは、すぐに密閉できる袋に入れ、ゴミ箱も必ず蓋付きのものを使用する。これらの基本的な管理を徹底するだけで、彼らが寄ってくるリスクは、大幅に減少します。もし、それでも寄ってきた場合は、絶対に手で払いのけたり、大声を出したりしてはいけません。彼らを刺激し、攻撃行動を誘発するだけです。静かに、その場を少し離れるなどして、蜂が自然に去っていくのを待つのが、最も安全な対処法です。美味しそうな匂いは、時に、危険な客を呼び寄せる。そのことを、常に心に留めておく必要があります。
なぜ食べ物に寄ってくる?クロスズメバチの食性と対策