もし、あなたの布団に潜む虫刺されの犯人が「トコジラミ(南京虫)」であったなら、それはダニの被害とは比較にならない、深刻な事態に直面していることを意味します。トコジラミは、近年の海外からの旅行者の増加などにより、世界中の都市部で再び大発生している、極めて厄介な吸血害虫です。その被害は、単なるかゆみだけでは済みません。安眠を妨げられることによる不眠や、精神的なストレスは計り知れず、日常生活に深刻な影響を及ぼします。トコジラミは、夜間、人が寝静まった頃に潜伏場所から這い出し、二酸化炭素や体温を頼りに、無防備な私たちの肌に近づき、吸血します。彼らは、吸血しながら少しずつ移動するため、腕や足、首筋といった露出した部分に、赤い発疹が線状に、あるいは数カ所かたまって並ぶのが特徴です。そして、そのかゆみは、蚊やダニの比ではなく、「耐え難い」と表現されるほど強烈です。人によっては、強いアレルギー反応で、発熱やじんましんを引き起こすこともあります。しかし、トコジラミの本当の恐ろしさは、その驚異的な「生命力」と「繁殖力」、そして「潜伏能力」にあります。彼らは、餌がなくても数ヶ月間生き延びることができ、メスは一生のうちに数百個の卵を産み、爆発的に増殖します。そして、彼らは、ベッドのマットレスやフレームの隙間、ヘッドボードの裏、壁紙の剥がれ、家具の継ぎ目、コンセントプレートの内部など、ありとあらゆる暗くて狭い隙間に巧みに潜伏するため、その姿を見ることは極めて稀です。さらに、近年のトコジラミは、市販の殺虫剤に耐性を持つ「スーパー耐性トコジラミ」が主流となっており、素人が中途半端に駆除を試みると、かえって生息範囲を広げてしまい、被害を拡大させる危険性が非常に高いのです。もし、特徴的な刺され跡や、シーツに付着した血糞(黒いシミ)など、トコジラミの存在を強く疑うサインを見つけた場合は、絶対に自力で対処しようとせず、迷わず専門の駆除業者に相談してください。