家の軒下やベランダにふと目をやるとシャワーヘッドのような形をした巣がぶら下がっていてそこに長い脚をだらりと下げて飛ぶハチが群がっているのを見つけることがありますがこれこそが日本の住宅地で最もよく見られるハチの代表格であるアシナガバチです。多くの人はハチというだけで無条件に恐怖を感じ殺虫剤で駆除しようとしますがアシナガバチの生態を深く知れば彼らがスズメバチとは全く異なる性質を持つ温厚な隣人でありむしろ人間にとって有益な存在であることに気づくはずです。まず彼らの性格ですが基本的には非常に臆病でおとなしく巣に直接触れたり至近距離で急激な動きをしたりしない限り人間を積極的に攻撃してくることはほとんどありません。彼らの主食は花の蜜ではなく蛾や蝶の幼虫いわゆる毛虫や青虫でありこれを肉団子にして巣に持ち帰り幼虫に与えます。家庭菜園やガーデニングを楽しんでいる人にとって作物の葉を食い荒らす害虫をせっせと狩ってくれるアシナガバチは頼もしい「天然のガードマン」であり彼らがいるおかげで農薬を使わずに済むことも多いため農業従事者の中にはあえて巣を駆除せずに保護する人もいるほどです。巣の構造もスズメバチのような外皮に覆われたボール状ではなく六角形の部屋がむき出しになったシンプルな作りで強度もそれほど高くありません。そのため台風や強風で巣が落ちてしまうこともあり自然界の中では比較的弱い立場にあります。しかし彼らの毒はスズメバチに比べれば弱いとはいえ刺されれば強烈な痛みを伴いアナフィラキシーショックを引き起こす可能性もあるため決して侮ってはいけません。特に洗濯物に紛れ込んでいるのに気づかずに取り込んでしまい服を着ようとして刺されるという事故が多発しているため物干し竿の近くに巣がある場合は注意が必要です。アシナガバチの巣作りは春先に一匹の女王蜂によって始まりますが彼女は前年の秋に交尾を済ませて冬を越し生き残った唯一の希望でありたった一匹で巣の基礎を作り卵を産み子育てを行います。最初の働き蜂が羽化するまでの一ヶ月間は女王蜂にとって最も過酷な時期でありこの時期に巣を落とされてしまえばコロニーは消滅してしまいます。夏になると働き蜂の数も増え巣は最盛期を迎えますが秋になると新女王蜂とオス蜂が生まれ交尾飛行へと飛び立ちます。そして冬が来ると働き蜂と旧女王蜂はすべて死に絶え巣は空っぽになります。アシナガバチの巣は一年使い捨てであり翌年また同じ巣が使われることはありません。このように彼らの一生は儚くも懸命なものであり軒下に巣を作るのはそこが雨風をしのげる安全な場所だと彼らが判断したからです。もし生活動線に支障がない場所に巣があるのならむやみに駆除するのではなくそっと見守ってあげる心の余裕を持つのも自然との共存の一つの形かもしれません。彼らは決して好んで人間を刺すわけではなくただ自分たちの家族を守ろうとしているだけなのですから。