あれは一人暮らしを始めて間もない頃のアパートでの出来事でしたが夏場にゴキブリが出現したことにパニックになり藁にもすがる思いでバルサン霧タイプを購入し説明書もそこそこに部屋にセットして出かけたのがすべての間違いの始まりでした。数時間後に帰宅した私は「これで全滅したはずだ」という達成感だけで満たされており換気こそしたものの「霧だし煙じゃないからそんなに汚れていないだろう」と高を括って床の拭き掃除をサボってしまったのです。その夜素足でフローリングを歩いたときのあの何とも言えないヌルッとした感触は今でも忘れられません。まるでワックスを塗りすぎて乾いていない床を歩いたかのようなあるいは微細なオイルミストを浴びた床のような不快なベタつきが足の裏に張り付き歩くたびにペタペタと音がする始末でした。さらに最悪だったのはそのベタついた床に部屋中のホコリや髪の毛が吸着してしまい普段なら掃除機でサッと吸えるはずのゴミが床に張り付いて取れなくなってしまったことです。慌てて雑巾がけを始めましたが水拭きだけでは油分が伸びるだけでなかなか落ちず結局深夜にドラッグストアまで走って住居用洗剤を買いに行き汗だくになりながら三回も床を拭き直す羽目になりました。被害は床だけに留まらず拭き掃除をせずにそのまま座ったソファの布地にも薬剤が染み込んでいたのか肌の弱い私は太ももに軽い痒みと赤みが出てしまい皮膚科に行くことになってしまいました。またテーブルの上に置きっ放しにしていたテレビのリモコンも表面がなんとなくベタついており隙間に入り込んだ霧の成分のせいかボタンの反応が悪くなったような気さえしました。そして極め付けは翌朝キッチンに立ったときにスリッパの裏が滑って転びそうになったことであり目に見えない薬剤の膜がこれほどまでに生活環境を変化させるものなのかと身を持って痛感させられました。バルサン自体は確かにゴキブリを駆除してくれましたがその後処理を怠ったことによる精神的・肉体的ダメージと時間のロスを考えると「手抜きは最大の遠回り」という言葉がこれほど身に染みた経験はありません。それ以来私はバルサンを使うときはまるで引っ越しの大掃除をするかのような覚悟で臨むようになり使用後は親の仇のように床を磨き上げるようになりました。これからバルサンを使おうとしている皆さんには私の二の舞にならないよう「換気したら即拭き掃除」を合言葉にしていただき面倒くさがらずに徹底的な後処理を行うことを強くお勧めします。あのヌルヌルとした床の感触と深夜の孤独な雑巾がけは二度と味わいたくない苦い教訓なのです。
拭き掃除をサボって後悔した私のバルサン体験記