派手な集団生活を送るスズメバチやミツバチの影に隠れてあまり目立つことはありませんが日本の軒先や壁にはひっそりとしかし驚くべき技術を持って巣作りを行うハチたちがおりその代表がドロバチやハキリバチといった「単独性狩りバチ」です。ドロバチはその名の通り泥を建材として利用する左官職人のようなハチであり水場から運んできた湿った土と唾液を混ぜ合わせて絶妙な粘度のモルタルを作り出しそれを竹筒の中や壁の窪み時にはベランダに干してある洗濯バサミの穴の中などに塗りつけて壺のような形や仕切りのある部屋を作り上げます。彼らは集団で社会を作ることはなく一匹のメスがすべての作業を行いますがその子育て方法は非常に献身的かつ計画的です。巣が完成すると母親は青虫や蛾の幼虫を捕まえてきますがここで彼女が見せる技はまさに神業です。捕らえた獲物を殺してしまうのではなく毒針を使って神経節を正確に刺し「麻酔」をかけて仮死状態にするのです。そして動けなくなったが生きたままの新鮮な獲物を巣の中に運び込みその体に卵を産み付けて泥で蓋をして密閉します。孵化したドロバチの幼虫は母親が用意してくれた新鮮な保存食を食べて成長し誰にも教わることなく成虫になって外の世界へと出て行きます。一方ハキリバチは植物の葉を丸く切り取って巣材にするハチでありバラなどの葉に綺麗な円形の穴が開いているのを見つけたらそれはハキリバチの仕業です。彼女たちは切り取った葉を筒状の空間に何層にも重ねて運び込みその中に花粉と蜜を練り合わせた団子を置いて卵を産みます。これらの単独性ハチは毒針を持っていますがそれは主に獲物を麻痺させるためのものであり防御用ではないため人間を攻撃することはめったにありません。むしろ巣の近くで観察していても人間に無関心でせっせと泥や葉を運ぶ作業に没頭している姿は職人気質の芸術家を思わせます。彼らは害虫である青虫を狩ってくれる益虫としての側面も強く人間にとって危険な存在ではないためもし家の周りで彼らの巣を見つけても駆除する必要は全くありません。むしろその精巧な巣の構造や親ハチの奮闘ぶりを観察することは自然の神秘に触れる絶好の機会であり子供たちの自由研究のテーマとしても最適です。集団で襲ってくる恐怖の対象としてのハチではなく個の力で静かに命をつなぐ彼らのようなハチもいることを知ればハチという生き物に対する見方も少し変わってくるかもしれません。彼らの小さな泥の城には母親の深い愛情と進化の知恵が詰め込まれているのです。
泥を操る建築家ドロバチの孤独な子育て