ゴキブリといえば黒くて大きいものを想像しがちですが駆除のプロが口を揃えて「最も厄介で戦いたくない相手」として挙げるのは茶色くて小さいチャバネゴキブリです。彼らは成虫でも一円玉ほどの大きさしかありませんがその小さな体には人類の叡智をあざ笑うかのような生存戦略と繁殖能力が詰め込まれています。チャバネゴキブリの最大の特徴はその増殖スピードにあり一匹のメスは一生のうちに数回卵を産みますが一つの卵鞘(らんしょう)には三十から四十個もの卵が入っておりしかもメスはこの卵鞘を孵化直前まで自分のお尻にくっつけて持ち歩くという習性を持っています。これにより卵は外敵や殺虫剤から守られ安全な場所で確実に孵化することができるため生存率が桁違いに高いのです。さらに彼らは発育期間が短く条件が良ければ二ヶ月程度で成虫になりすぐに次の繁殖を始めるため計算上は一匹のメスから半年で数千匹から数万匹にまで増えることも理論上は可能です。また彼らは寒さに弱いという弱点を持っていますが現代の住宅は気密性が高く冬でも暖房が効いているため彼らにとっては一年中繁殖可能な楽園となっており特に冷蔵庫のモーター周辺や炊飯器の中テレビの裏側など暖かくて狭い隙間を好んで巣にします。そして何より恐ろしいのが「薬剤抵抗性」の問題です。チャバネゴキブリは世代交代が早いため殺虫剤に対する耐性を獲得しやすく市販のスプレーや毒餌が効かない「スーパーチャバネゴキブリ」が出現することが頻繁にあります。もし家の中で薄茶色の小さいゴキブリを見かけたらそれは迷子ではなくすでに壁の裏や家電の中でコロニーが形成されている氷山の一角である可能性が高くスプレーで一匹を殺したところで何の意味もありません。根本的な解決にはベイト剤(毒餌)を適切な場所に設置し巣ごとその集団を壊滅させる必要がありますが耐性を持っている可能性があるため成分の異なる薬剤をローテーションで使用したりプロ専用の強力な薬剤を使用したりといった工夫が求められます。飲食店でよく見かけるこの小さい悪魔が一般家庭に侵入した場合その駆除は長期戦かつ総力戦となることが避けられず「小さいから怖くない」などという油断は命取りになります。彼らは荷物や衣類に紛れて外から持ち込まれることが多いため外食先や職場から連れて帰らないよう注意するとともに万が一侵入を許した場合は初期段階での徹底的な叩き出しこそが唯一の防衛策となるのです。