湿気の多い梅雨の時期や夏場に本棚の本を取り出してみると表紙や小口(こぐち)の部分に微細な薄茶色の点々が動いているのを見つけて絶句することがあります。老眼のせいかゴミがついているだけかと思い目を凝らしてみるとその無数の点がモゾモゾと動いていることに気づきそれが生き物であると認識した瞬間に全身に鳥肌が立つことでしょう。この正体は「チャタテムシ(茶立虫)」と呼ばれる体長一ミリメートルにも満たない微小な昆虫であり古本や段ボールそして湿気た畳などを好んで発生する非常に身近な害虫です。彼らが本に湧く最大の理由は「カビ」にあります。チャタテムシは紙そのものを食べるわけではなく紙に生えた目に見えないレベルのカビや酵母を主食としており湿気を吸ってカビが生えやすくなった本は彼らにとって巨大な牧場のようなものです。特に通気性の悪い本棚にギュウギュウに詰め込まれた本や長期間開かれていない全集などは湿気がこもりやすくチャタテムシの温床となりがちです。彼らは毒を持っているわけでも吸血するわけでもありませんがその圧倒的な数による不快感は精神的なダメージが大きく大量発生した本を開くとページの間から数百匹が溢れ出てくるというホラー映画のような事態も現実に起こり得ます。またチャタテムシの死骸やフンは強力なアレルゲンとなることが知られており吸い込むことで喘息やアレルギー性鼻炎を引き起こす原因にもなるため健康被害の観点からも軽視できない存在です。さらに恐ろしいのはチャタテムシを捕食するためにツメダニという人を刺すダニが二次的に発生することであり本に虫が湧くだけでなく住人がダニに刺されて痒みに苦しむという負の連鎖を招くリスクもあります。駆除方法として殺虫スプレーは有効ですが本の紙質を傷めたりシミになったりする可能性があるため直接噴射は避けた方が無難です。根本的な解決策はやはり「乾燥」と「清掃」に尽きます。まずは本をすべて取り出して天日干しにするか布団乾燥機などを使って湿気を飛ばしチャタテムシの餌となるカビを死滅させることが重要です。本棚自体もアルコール除菌シートなどで拭き上げカビの胞子を除去します。そして何よりも部屋全体の湿度を五十パーセント以下に保つよう除湿機をフル稼働させることが彼らの繁殖を止める唯一の道です。チャタテムシは乾燥に弱く湿度が下がれば自然と死滅していくため本を守る戦いは湿気との戦いと同義であることを肝に銘じておく必要があります。大切なコレクションが微小な虫たちに占拠されないよう定期的な換気とチェックを怠らないことが読書家の義務と言えるかもしれません。