ハチといえば黒と黄色の縞模様で毒針を持つ怖い虫というイメージが先行しますがその中で唯一愛らしいキャラクターとして描かれることが多いのがミツバチであり彼らは私たちの食卓を支える影の功労者でもあります。ミツバチの最大の特徴は高度な社会性と勤勉さにあり一つの巣には一匹の女王蜂と数万匹の働き蜂そして少数のオス蜂がひしめき合いまるで一つの巨大な生命体のように機能しています。働き蜂はすべてメスですが彼女たちは生涯を通じて役割を変えながら休みなく働き続けます。羽化したばかりの頃は巣の掃除係から始まり幼虫の世話係巣作り係門番係そして最後は外に出て花の蜜や花粉を集める採餌係となってその短い一生を終えます。彼女たちが集めた蜜は巣の中で加工され蜂蜜として蓄えられますがこれは彼女たち自身の食料であると同時に人間にとっても貴重な甘味資源となります。しかしミツバチの真の価値は蜂蜜の生産だけではありません。彼らが花から花へと飛び回ることで植物の受粉が媒介され野菜や果実が実を結ぶのです。イチゴやメロン、カボチャなど私たちが普段口にしている農作物の多くはミツバチの受粉活動なしには生産することが難しくもしミツバチが絶滅すれば世界の食料事情は壊滅的な打撃を受けると言われています。ミツバチの性格は極めて温厚で巣を直接攻撃されない限り人を刺すことはめったにありませんが彼女たちの武器である毒針には「返し」がついており一度刺すと針が皮膚から抜けなくなり内臓ごと引き抜かれて死んでしまうという悲しい運命を持っています。つまりミツバチにとって攻撃は自らの死を意味する最終手段なのです。日本には在来種のニホンミツバチと養蜂のために導入されたセイヨウミツバチの二種類が生息していますがニホンミツバチは野生味が強く環境の変化に敏感で気に入らないことがあるとすぐに巣を放棄して逃げ出してしまう気まぐれな性格をしています。一方でニホンミツバチは天敵であるオオスズメバチに対して独自の対抗策を持っておりそれが「熱殺蜂球(ねっさつほうきゅう)」と呼ばれる必殺技です。これは偵察に来たオオスズメバチを集団で取り囲んでボール状になり筋肉を震わせて熱を発生させ中心温度を四十六度以上に上げてスズメバチを蒸し殺すという驚くべき戦術です。セイヨウミツバチはこの技を持たないためオオスズメバチに襲われると一方的に全滅させられてしまいます。また春になると「分蜂(ぶんぽう)」といって新しい女王蜂が生まれると古い女王蜂が働き蜂の半分を引き連れて巣を出ていく引越し現象が見られますがこの時大量のハチが木の枝などに固まっている姿は圧巻です。このようにミツバチは小さな体に似合わず複雑で知的な社会を築いており彼らの働きぶりを知れば知るほど単なる虫とは思えない尊敬の念を抱かずにはいられません。